柏木加代子先生はフランス文学研究者である。大阪大学のご出身で、同じくフランス文学研究者の柏木隆雄先生(大阪大学名誉教授)とは御夫婦である。柏木隆雄先生のご著書はこのブログでも何度も紹介させていただいたが、加代子先生の単著書ははじめてだと思う。先生は京都市立芸術大学で長い間教鞭をとられ、現在は名誉教授である。上村松園・松篁・淳之の三世代は、いずれも京都芸大(前身の学校を含める)と関係が深く、加代子先生は淳之氏とは同僚であった。そこで、この三代に画業を、一八八〇年の京都府画学校創立以来の京都芸大の歴史と重ね合わせて叙述したのがこの本である。
三人のそれぞれの特徴を「磨く」「視る」「誘う」がよく表していると思った。
日本画だけに日本古典文学とも関わりが深く、その点でも、非常に興味深く読ませていただいた。たとえば、明治20年代、日本画では歴史を主題とする歴史画が流行するが、江馬務が時代風俗画を描く目的で、この学校で風俗史を教えていて、松園の美人画の女性の髪型には、それが反映しているというくだりがあったり、松園と松篁が謡いを学んでいて、そのモチーフで描かれたものについての解説があったり、『雨月物語』の「夢応の鯉魚」に言及しての叙述があったり、非常に楽しい。サルトルやメルロ・ポンティの引用など、フランス文学研究者ならではの解説もある。加代子先生は、ジャポニズムに造詣が深くいらっしゃるので、西洋画との比較考察も非常に勉強になり、引用されている画家の絵を観たくなってしまうほどである。
かつて、柏木先生ご夫妻のお手伝い(と言いながらご迷惑ばかりかけてしまったが)で、ニースの美術館に所蔵されている「北斎漫画」の調査に同行させていただいた。そのあとパリにも行き、先生方の人脈のおかげで、ルーブルやオルセー、ギメなどの学芸員の解説を聞きながらの鑑賞という夢のような時間を過ごさせていただいたことがある。「北斎漫画」の調査については加代子先生との共著で、京都芸大の紀要に発表させていただいたことも思い出されて感慨深い。
それにしても、この三代、三人とも文化勲章を受章しているというのは、あまりにもすごい話であるが、画業への真摯な思い、画技だけではない教養と心の修養が並みではないこと、本書でよく理解できた。

