もう巷ではお歳暮とか年賀状とかおせちとかの案内が。『国語と国文学』も11月号である。授業後、非常勤先の図書館で読む。特集「風土」。なんとも古めかしいことばが逆に新鮮かも。古代文学から近代文学、そして国語学まで、11本の論文。歌枕マッピングウェブサイトを運営するプロジェクト「デジタル文学地図」に関わる者としては、見逃せないいくつかの論文があった。
また「歌枕」をタイトルに謳うものも複数あって。なかでも、真島望さんの「歌枕から名所へー高野幽山編『和歌名所追考』をめぐってー」は勉強になった。文学に現れる歌枕・名所のおおまかな流れとして、「イメージから実見へ」、「和歌と関わらない名所の登場」、「名所の増加と多様化」などが漠然と浮かぶのであるが、本論文は、近世前期に編纂された高野幽山編『和歌名所追考』を用いて、和歌・などころ(証歌の集積あり)から名所(証歌の集積なし)へという見通しを示している。
証歌のある「歌枕」を大幅に増やした『歌枕名寄』に対して、証歌のない『和歌名所追考』という点が私としてはポイントである。先行文献は俳諧研究者の側からいくつかある。幽山は、三千風と同様に、全国を行脚・踏破した人物。二十数年かけての名所探訪の成果として表したのが『誹枕』と『和歌名所追加考』だった。『和歌名所追考』は165巻28冊(欠冊あり)という大部なものである。ただ版本をふくめ、諸本についての言及があまりないので(先行研究にはあるのだろうが)、この本そのものについては、ちょっとわかりにくい部分もある。
西鶴の『一目玉鉾』との関わり、あたらに加わった名所として古戦場など実見に基づくものがあり奥の細道に先行する名所観であることなど、重要な指摘があり、近世地誌に通じるところがあることを述べる。歌書の体裁を持ちながら近世地誌的であるところである。
なお、上杉和央氏が『摂陽郡談』をもちいて抽出した名所観として、「歌名所」と「俗名所(過去)」と「俗名所(現在)」という分類意識を見出していることに言及されているが、これも大変興味深いものである。
ちなみに同号には、加藤弓枝さんの「頼春水・小沢蘆庵書簡にみる近世中期上方歌壇の風土」という論考もあるが、こちらは蘆庵文庫研究会仲間の論文なので、いうまでもなく必読。最後らあたりに出てくる大坂と京都の風土の違い、大事よね。蘆庵もある意味大坂人なので。これを私も大坂から京都に移った秋成に感じて「浪花人秋成」という論考を書いたのであった。
2025年10月15日
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