2018年05月19日

居行子と児戯笑談

『文献探究』は九州大学の国語学国文学研究室の院生が中心になって出している学術同人誌。かつては年2回、今は年1回刊行されている。我々の少し上の先輩たちが創刊し、今回2018年3月に出たのが56号。これも40年ばかりの歴史を持つ。当初は手書き。先生方のご寄稿を手書きして、確認すると、文字通りの朱が入り、それを上から貼ってまた書き直すという、超アナログな雑誌だった。東京学芸大の『叢』が同じ感じで親しみを持っていた。さて、56号は近世が多い。中でも吉田宰さんの『居行子』翻刻の連載と、脇山真衣氏の『児戯笑談』の翻刻(こちらは完結)は、とてもありがたいもの。近世中期のこのような通俗教訓的な本、「奇談」領域と重なるものもあるわけだが、当時の「知と教訓」がどういうレベルでいかに融合するかが見えてくる。私が編集に関わっていたのはまだ一桁の号のころだった。よくここまで継続していただいた。そしてこれからも、がんばってほしい。
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『東国名勝志』の意義

 真島望氏が『国語国文』2018年4月号に書かれた「再生される地誌−『東国名勝志』とその依拠資料をめぐって−」は、様々な意味で非常に示唆に富む論文である。
 この論文に私はかなり興味を持ったが、その理由は第1に、宝暦に出た『東国名勝志』が、「奇談」書を刊行しかつ自身も作者であった大阪吉文字屋市兵衛(鳥飼酔雅)の作・刊行であること。「奇談」書研究の周辺として押さえておかねばならない本である。第2に本書が、安永以後輩出する「名所図会」の先駆的な地理書であることだ。デジタル文学地図のプロジェクトに関わっている身としては関心をもたざるを得ない。
 まず、本論は、『東国名勝志』の絵が西鶴の『一目玉鉾』および遠近道印の『東海道分間地図』という元禄の地誌に依拠していること。本文は『一目玉鉾』『国花万葉記』に依拠しているということと、その東国認識の継承について触れるとともに、捨象した要素にも着目し、その情報整理について分析している。
 そして吉文字屋が『一目玉鉾』の版木を入手していたこと、『分間地図』もその可能性があること、さらには西鶴本の復興機運との関わり、後代の名所図会に繋がる位置づけなどを指摘、吉文字屋の書肆としての手腕の評価を行っている。
 「再生される地誌」のタイトルにはおそらく重層的な意味が込められているが、もっとストレートでもよかったかもしれない。いい論文だった。
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大阪で「江戸の戯画」展、京都で「池大雅」展

5月になって、更新をサボり続けていた。ひとつの記事が短くなるが、すこしずつ書いてゆく。
大阪市立美術館の「江戸の戯画」展は、北斎・国芳・暁斎というビッグネームを「売り」にしているが、私としては耳鳥斎を楽しみにしていた。期待を裏切らないとぼけた味!嬉しかった。
 そして京博では池大雅展。85年ぶりとか謳っているけど、南画の大成者といわれながら、確かに大規模な大雅展というのはこれまで見たことがない。秋成が『胆大小心録』で大雅のことを回顧し、「いまでは超有名な画家でちょこっと字を書いただけのもめっさ高価。でも昔は座る場所もないような家に書き損じを山と積み、あんたは堂島やて?と言いつつ黒舟忠右衛門を描いてくれた」と懐かしんだが、それをそのまま絵にしたかと思える「池大雅家譜」の初丁の絵は、妻玉瀾も描かれているが、物にかかわらない飄々たる芸術家夫妻をよく写している資料である(鉄斎美術館蔵)。
 遺影を福原五岳が描いていたり、木村蒹葭堂が弟子だったりと、大坂の人に愛されたなという印象。一方で和歌は冷泉為村門。書や篆刻にも才を発揮し、間違いなく教養人。指墨図という指で描く画にも長じていた。語り尽くせるものではない大雅の魅力が満載の展示でありました。
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2018年04月30日

超みんなで翻刻してみた参加記

幕張メッセで開かれるニコニコ超会議というイベント。4月28日・29日の2日で16万人の人出だったそうです。
初音ミクと歌舞伎のコラボ「超歌舞伎」が行われることでも有名です。

今年も京都大学古地震研究会を中心とする「みんなで翻刻」チームがブース出展。6台のpcを用意して、その場で通りがかりの人に座ってもらい、スタッフが手ほどきして、地震史料をひたすら翻刻してもらうという、非常にシンプルなイベントですが、その間にいろいろなレクチャーやトークがあるという形です。

私は2日目に参加して、くずし字レクチャーと、ロバート・キャンベルさんとのトークセッションを行いました。

笠間書院の西内さんも去年に引き続き来て下さいました。そして慶應大学の合山林太郎さんがまさかのスタッフ参加(「みんなで翻刻」作成者の橋本雄太さんを慶応に招いて講演していただいたのがきっかけとか)。

さすがにキャンベルさんの人気は高く、トークの時には人だかりが出来ました。キャンベルさんどんどん仕切って、オーディエンスに「翻刻は例えればどういうこと?」と振ったり、持参してきた江の島クラスタ的な和本を持参して、そこにいた和服の教え子をトークの場に手招きして、変体仮名をすらすら読ませたり、本を懐に入れさせてみたりと、江戸時代の江の島詣でを再現し、書物の身体性をアピールするという、まあよくその場で思いつくなという。この書物の身体性、つまりモノとしての和本の重要性を巧みに説いていました。

今年は、このブースでの「みんなで翻刻」の結果が2日で1万字を超えるという、去年の数倍という大成果もあり、トーク後の質疑のレベルが高くてマジで勉強になりました。K府立大学で近世文学を学び東京に就職した方も参加してくれていました。ニコニコで生放送もありました。シフト放送は1週間限りだそうです。お見逃しの方は連休中に!キャンベルさんトークは放送開始後4時間半くらいです。

なお、こちらのブログに、トークセッションのあとの質疑応答が書き起こされています。

また当日の模様は、こちらのサイトに写真入りで報告されています。ここから、シフト視聴にもリンクが張られています。

翻字に参加してくださった皆様、見に来て下さった皆様、動画を視聴してくださった皆様(コメント下さった方々)、スタッフの皆様、どうもありがとうございました。
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2018年04月29日

本日午後、幕張メッセで、くずし字のレクチャーとトーク

大阪伊丹空港ターミナルビルはリニューアルで綺麗になりました。朝はバタバタしてあまり観察できませんでしたが、時間のあるときにゆっくり探検したいものです。飛行機は案外に混んでいません。やはり連休に東京に行く人ってあまり多くないのでしょうね。

さて、今日は、幕張メッセで行われているニコニコ超会議の「超みんなで翻刻してみた」2日目のワークショップに出演します。みんなで翻刻してみたのブースはホール9の超まるなげ広場(だったっけ)にあります。

私は、
14時から「読める!読める!アプリでくずし字!」のレクチャー。
15時から、ロバート・キャンベルさん(国文学研究資料館館長)らとのトークセッションに出演いたします。

トークセッションはどんな展開になるのか、まったく事前打ち合わせなし。

ニコニコ動画で生放送もありますし、シフト視聴もできます。よろしければ是非。

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2018年04月26日

松永貞徳は魅力的!(柿衞文庫で展示中)

 今日は大学院のゼミの時間を使って、近くの柿衞文庫で開催中の「手紙シリーズX 松永貞徳とその周辺」を見学に行きました。
この展示、非常に面白いので、是非来て下さいという、辻村尚子学芸員(私の教え子です)の言葉通り、なに、貞徳ってこんなに面白い人なの!ということが、びんびん伝わってくる展示でした。
 もちろん、これは辻村さんのギャラリートークがあってこそなのですが、出ているものも、滅多に見られないものがいくつかあって、実に興味深い。いくつかピックアップ。
 連歌のコーナーでは貞徳が師事した紹巴主催の連歌百韻「賦何人連歌百韻懐紙」。連歌懐紙を改装して巻物にしたものだが、懐紙のありようもよくわかった(これは解説なしでは気づかない)。貞徳はここでは「勝熊」という名で出ている。なぜ「熊」か?というと、彼の母親が長男を懐妊した時に、夢に熊が現れお腹を撫でて、それで安産だったので三人の子供に熊の名前をつけたらしい。貞徳は「小熊」と呼ばれていたが、俳号はそれと音が同じの勝熊。という蘊蓄を伺う。こんなことは解説にも書いていないことだ。
 紹巴宛木食応其(もくじきおうご)宛書簡は、連歌懐紙を美しく仕上がるべく、「下絵所」に下絵を注文するということがわかるというもの。
 羽柴千句は、紹巴亭で催された秀吉毛利攻戦勝記念千句。第十百韻の発句は秀吉だが紹巴の代作だという。この中に貞徳の父永種の名が見える。
 貞徳が父から伝えられた名物の硯を末吉長久に与える譲り状の草稿。自筆。永種は法華経を二十日で暗記するほどの収載だったゆえ、東福寺永明院の霊宝である硯を譲られた。永種の伝記資料としても貴重。
 望月長孝宛貞徳書簡。「長頭丸」名で出している。この名前の由来も説明してくださった。寿命が来たので生まれ変わってまた幼名になったと。
 貞徳筆葉茶壺の記百韻。数少ない自筆百韻資料。板倉重宗と考えられている高位の武家に献呈。推敲の後が見られる。重徳編の『誹諧独吟集』に入集。それも展示。
 短冊「鳥の名をふたつ持たる今年かな」。「乙酉」の年、つまり正保二年の作だと。燕のことを「乙鳥」というので「鳥の名ふたつ」になるという説明。なるほど。
 野村九郎兵衛宛貞徳書簡。貞徳が拝領した塩漬けの鶴の肉(養生食らしい)を母思いの九郎兵衛当てにお裾分けする手紙。「長頭丸」名で出している。「たらちめを千代ともおもふ人の子に此はいりやうをゆづる成けり」。ゆづるに「鶴」がかかる。返歌もあるが省略。
 とにかく、ギャラリートークが面白い。これまで聴いたギャラリートークの中でも1、2を争うくらいの内容。これも学芸員ご本人が、貞徳をすごく面白がっているからである。聴くと貞徳のファンになってしまう(これは大げさではなくそういう感想続出)。
 俳諧に興味のある方、お願いすれば、辻村さんが説明してくださいます!連絡してみましょう(そう宣伝していいと言われました。その場でお願いというのはちょっとむずかしいと思いますので事前に連絡を)。HPはこちら。展示は6月10日まで。10:00-18:00(入場は17:30まで)
 

 
 
 
 
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2018年04月22日

出版社を「編集」すること

日文研の荒木浩さんの主宰する共同研究「投企する古典性−視覚/大衆/現代」に参加しました。
今日は文学通信という新しい出版社を立ち上げた岡田圭介さんの発表

出版社を「編集」すること−「文学通信」の立ち上げと、学術メディアを取りまく状況

なかなか聞けない裏事情を含め、下記のような多くの有益な情報が聞けてありがたかった。
〇1996年をピークに出版売り上げは毎年下降し、現在は最盛期の半分ほど。なぜそれなのに出版社はやってこれたのか?
〇日本書籍出版協会や版元ドットコムの働きや存在意義。
〇TRC図書館流通センターの存在感。
〇出版危機の分析
〇日本文学系メディアの消滅がもたらしたもの。
などなど。

その後の議論の中でも、様々な貴重な情報や分析を聞くことが出来た。例によって、文学あるいは古典の愛好者の裾野を拡げるには、という話になったが、「そもそも古典は地方文学、万人に受け入れられるものではない」という荒木さんのご意見には納得。一口に古典と言っても、京都に住む人と、新潟に住む人では、親しさが違う。京都ならすんなりと受け入れられる。
学術メディアを取り巻く状況を単に厳しいと言っているだけでは解決への糸口はつかめないし、糸口をつかんだ気になっているのも能天気。
こういう問題を、研究者たちが飲み会とかではなく、研究会で議論するのは珍しいことだが、岡田さんの報告のおかげで、様々な問題を共有できたことは、たいへんよかった。
 ところで呉座勇一さんとも初めて帰りのバスの中でお話ができたが、大変気さくな方であった。また個人的には屋良健一郎さんとご挨拶できてよかった。屋良さんは琉球における和歌の受容について昨日発表されたのだが、私は聞けなかったが、帰りの電車が一緒だったので。屋良さんは「心の花」所属の歌人でもあって、こちらは勝手に短歌時評を読ませていただいたりしているのでした。
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2018年04月19日

伊藤松宇旧蔵書がここにもあった。

京都府立大学武学部日本・中国文学科編『京都府立京都学・歴彩館所蔵 新免安喜子氏寄贈連歌俳諧書目録』(2018年3月)が刊行された。新免安喜子氏は潁原退蔵晩年の弟子で、寄贈されたものは、昭和19年に新免氏が購求し、松江市に疎開させていた伊藤松宇旧蔵の連歌俳諧書。これまでまったく存在が知られていなかった。松宇旧蔵といえば講談社所蔵の伊藤松宇文庫が知られるが、その方の状態は悪く、国文研の紙焼きでないと閲覧できない状況、しかしこちらの方が保存状態は良好なのだという。
ところで、この目録の面白いのは、「あとがき」である。目録作成のための調査に関わった人たちが、それぞれこの文庫の中で特に思い入れのある本について記している。教員も学生もそれぞれの立場で書いているというところがユニークである。
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幕張メッセで今年もやります!

昨年に引き続き、幕張メッセで行われるニコニコ超会議2018で「みんなで翻刻」(京大古地震研究会)がまたまたブースを出します。4月28日(土)と29日(日)。
29日は、14:00から私が「読める!読める!アプリでくずし字!(仮題)」のミニ講義、そして、15:00からは、ロバート・キャンベルさんとわたし、加納靖之さん・橋本雄太さんがトークセッションを行う。こちら
KuLAは10万ダウンロード数を突破。みんなで翻刻は参加者4000人突破、翻刻460万文字突破というのが現況。この勢いを受けて、ふたたび幕張でやります。当日はニコニコ動画で中継します。ご興味のある方、御覧下さい。
今年はなにやら、新しいキャラクターの描かれたステッカーも、アクティブな参加者には配布されるという情報も入ってきている。そう、その場で「くずし字翻刻」体験をしたい方はぜひおいでください。スタッフがきっと親切丁寧に教えてくれますよ。未経験者大歓迎!
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2018年04月18日

潁原退蔵文庫選集

自分の研究生活も第4コーナーを回った感があり、新たに本を購入することに、かなり慎重になっている(これ、置き場がない、購入資金がやがてなくなる、積ん読で終わりそうなどいろんな理由がある)。
しかし、『京都大学蔵潁原文庫選集』は、定期購読しているシリーズ。第六巻は待望の談義本・読本・軍書で、解題陣も、山本秀樹・田中則雄・高橋圭一と来て、思わず食いついてしまう。臨川書店から2018年3月刊行。
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2018年04月17日

フランクフルトの奈良絵本

神戸女子大学古典芸能センター編『説経稀本集』(和泉書院、2018年3月)が刊行された。フランクフルト工芸美術館所蔵の『〔くまのゝ本地〕』と『ほうめうとうし(法妙童子)』が収められている。加えて阪口弘之先生御所蔵の『あいご物語』『つほさかのさうし』。

さて、この本の刊行は私にとっても感慨深いものがある。
2016年、ハイデルベルク大学で3ヶ月江戸文学とくずし字の講義をする機会を与えていただいた時に、フランクフルト大学で行われたくずし字ワークショップに参加するチャンスがあった。その際に、フランクフルト工芸美術館に行き、フォーレッチコレクションの奈良絵本を見せていただき、イエッセ先生の講演(英語)を聴いた。イエッセ先生は、今回収められた『〔くまのゝ本地〕』の研究を中心に奈良絵本研究で博士論文を書かれている。その時には含蓄深い、実物を前にしての解説を伺ったあと、お茶もご一緒できて、いろいろなお話をうかがった。
その時の記憶が、一気に甦ったのである。

今回、『〔くまのの本地〕』『ほうめうとうし』の絵の部分はカラー図版である。解説もイエッセ先生・シュミットガイバンド氏・阪口先生が書かれている。

なお本編の姉妹編が昨年出た『説経−人は神仏に何を託そうとするのか−』(和泉書院)である。これについてはちょっと書いた

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2018年04月08日

江戸末期伊勢商人の「読みたい本」目録

石水博物館が近世期伊勢商人の書物交流や読書意識を明らかにする資料の宝庫であることは、これまでの調査報告からすでに明らかであるが、またまた好資料が紹介された。
早川由美さんの「資料紹介 川喜田石水「みたき本」目録−近世期地方知識人の書物意識」(「叙説」第45号、2018年3月)である。
幕末から明治を生きた伊勢商人の川喜田家の当主、石水文庫の「石水」の由来でもある石水の教養の基盤のようなものが窺える。蔵書目録ではなく「見たい本目録」というのも珍しいが、むしろ、こちらの方が、彼の描く「あるべき教養」を明らかにするという意味で重要ではないだろうか。実際に手元にあるかないかを別にして、「読むべきだ」と彼が考えたリストだとみてよい。仏書や茶書は格別で、歴史・軍記・歌学・国学なども重視していることがわかる。往来物などは卒業している段階なのだろう、出てこないし、娯楽的な本も少ない。「南朝学」のような一項をたてているのも興味深い。
そして、ここにも『春雨物語』が出てくる。小津桂窓(久足)から石水の父である川喜田遠里宛書簡に、『春雨物語』のことが出てくるという青山英正さんの指摘については既報した通りである。まだまだお宝が眠っているのだろうな。次は何が出てくるのか、楽しみである。
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2018年04月07日

清涼井蘇来集

 亡くなった木越治さんの責任編集で刊行中の國書刊行会、江戸怪談文芸名作選第三巻は『清涼井蘇来集』(2018年4月)。この作者の名前は、日本文学研究者でも近世が専門でなければほとんどの人が知らないかもしれない。作品の活字化もこれまでないはずである。そんな作者に目を付けて1冊作ろうとするとは。
 この作者についてはかつて樫沢葉子さんが、基礎的な研究を行ったが、それはもう20年以上前の話で、それ以来とりたてて研究が出ていないようである。木越秀子さんをはじめとする四名の方の翻刻と井上泰至さんの解題。井上さんらしい達者な文章で、蘇来の魅力を語るが、この謎の作者はどこから来たのだろうの思いはさらに強まる。
 校訂者の一人、郷津正さんの『今昔雑冥談』解題が詳細である一方、他の作品はほぼ書誌のみ。こういうやり方もあるのかと思ったが、ちょっと理由を書いておいてほしかった。
 いずれにせよ、私にとって蘇来は「奇談」作者なので、ありがたい1冊なり。
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2018年04月06日

佐賀城下にあった幻の大庭園−観頤荘

 佐賀学といえば井上敏幸先生というのが長らく私のイメージだったが、いま中尾友香梨さんが頭角を現し、佐賀学を担う主要研究者となっているのではないか。
 それを思わせる本が『佐賀城下にあった幻の大庭園−観頤荘』(佐賀学ブックレット6、海鳥社、2018年3月)。
 日本三名園に劣らない広大な庭園が佐賀城下にあったなんて、地元の人でもほとんど知らないだろう。しかし、三名園が整備されるずっと前の近世前期、なんと元禄期に造営が始まった10万平米以上の巨大庭園が佐賀城下に存在したというのだ。なぜ知られていないか。江戸時代に解体されてしまったからである。
 この幻の大庭園、観頤荘を、資料に基づき復元、園遊し、その歴史と機能と意義を、一般の読者向けにわかりやすく書いたのがこの本である。
 庭園学・佐賀学・漢文学・・・と総合的な学問力に加えて、確かな文章力がないと出来ないお仕事だが、お見事!というべきだろう。観頤荘という難しい庭の呼称についての解説ももちろんある。この庭園、藩主の理想を表現したものだったようであるが、理想は理想、残念ながら維持できなかったようである。財政難が原因だろうと指摘する。その期間は本当に短かったようである。「幻」というゆえんである。
 ちなみにまったく同時期に、中尾さんと高橋研一氏・中尾健一郎氏による『鹿島文学−甦る地域の文化遺産』(佐賀大学地域学歴史文化研究センター)も刊行されている。こちらは肥前鹿島藩の藩主・黄檗僧・懦者・藩士らの漢詩文文化を体現する詩文集で、平成28年に原本が見つかったというから、仕事はやっ!
 佐賀は江戸時代文化度がめっちゃ高い。これは若い頃、井上先生に連れられて、祐徳稲荷などの本を調査させていただいたり、大学の漢詩文の演習で、佐賀がらみの文人がえらく多いなと思い知らされたりしての実感。この文化、まだ生きていますね。

 
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2018年04月03日

昔の論文での予見が当たっていた話

 杉本和寛さんの「禁談義から禁短気へ−『風流三国志』と『傾城禁短気』構想の背景としての宝永の宗論騒動」(『東京藝術大学音楽学部紀要』43集、2018年3月)が刊行された。
 副題の通り、「禁談義」(浄土宗の日蓮宗批判)の盛り上がりを背景とする浮世草子の動向について、非常に精緻に調査をされたもので、宗論騒動と出版との関わりがよくわかる論文。「談義」と「咄」を「奇談」書の〈語り〉の原型と見る私にとっては、非常に参考になる。
 と、同時に、私がかつて「「奇談」の場」(『語文』78、2002)で、予見していたことが事実であったことを立証してくださったという、まことにありがたーい論文なのである。
 簡単に言うと、私はこういうことを述べていた。
 江戸時代の書籍目録の「奇談」書リストに載る「平がな談義帖」という本は伝本がないが、禁談義を本の形にした『増上縁談義咄』の中で「談義帳」という語が出てくるのと関係がありそうだと。ちなみに「平がな談義帖」は「新撰禁談義」の改題本であるということはわかっているが、「新撰禁談義」という本がまたわからなかったのだ。
 ところが杉本さんの今回の論文で、杉本さんが『新撰禁談義』を入手されていたことがわかった。さりげなく書かれているが、私からすれば、大発見だ。しかもこれは、『増上縁談義咄』三巻五冊を三巻三冊に改装し、内題等を改める形で刊行しているというのである。その改題本が『平がな談義帖』であるわけだからば、私の想像が当たっていたということになるのであります。
 この論文を書いたのが16年前。16年後に、こういう形で仮説が証明されるとは、あーうれし。杉本さん、ありがとう。
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